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東京地方裁判所 昭和50年(ワ)6168号 判決

原告 小滝サト子

右訴訟代理人弁護士 和田良一

同 小野晃嗣

被告 大場運送株式会社

右代表者代表取締役 大場八郎

右訴訟代理人弁護士 的場武治

同 戸取日出夫

同 栗林秀造

同 吉成昌之

被告 株式会社新工務所

右代表者代表取締役 新昭一

右訴訟代理人弁護士 金谷鞆弘

同 神頭正光

主文

一  被告大場運送株式会社は原告に対し金一〇一五万一六八一円および内金九四〇万一六八一円に対する昭和四七年一〇月二四日から、内金七五万円に対する昭和五〇年八月一九日から各支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告大場運送株式会社に対するその余の請求および被告株式会社新工務所に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用中、原告と被告株式会社新工務所との間に生じた分は原告の負担とし、原告と被告大場運送株式会社との間に生じた分はこれを二分し、その一を同被告の、その余を原告の負担とする。

四  この判決第一項は、かりに執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

(一)  被告らは各自原告に対し金二三二四万九六〇六円および内金二一一三万六〇〇六円に対する昭和四七年一〇月二四日から、内金二一一万三六〇〇円に対する昭和五〇年八月一九日から各支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告らの負担とする。

(三)  仮執行の宣言。

二  被告ら

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

第二請求原因

一  事故の発生

原告は次の交通事故によって傷害を受けた。

(一)  日時 昭和四七年一〇月二四日

(二)  場所 東京都港区六本木四丁目二番一号先路上

(三)  加害車 大型貨物自動車(品川一一か七六一号)

右運転者 訴外宮良昌招

(四)  態様 加害車が前記場所から発進した際、歩行中の原告を自車左側面と道路左側のコンクリート塀との間で狭圧したもの。

二  責任原因

(一)  被告大場運送株式会社(以下、被告大場運送という。)は加害車を所有し、これを自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条に基く責任がある。

(二)  被告株式会社新工務所(以下、被告新工務所という。)は訴外相馬美幸、同山下俊幸、同富田良輔の使用者であるところ、同人らは被告新工務所の業務として加害車の誘導をしていたのであるから、加害車を正しく誘導して事故の発生を防止する義務があるのにこれを怠り不適当な誘導をして本件事故を惹起させたものであるから、被告新工務所は民法七一五条一項に基く責任がある。

三  損害

原告は本件事故のために胸部打撲、右肋骨骨折(Ⅱ~Ⅹ)、右肺損傷、右血胸・気胸、左鎖骨骨折、左肋骨骨折(Ⅱ、Ⅲ)の傷害を受けて昭和四七年一〇月二四日から昭和四八年三月一一日まで、昭和四八年一〇月二三日から同年一二月三一日までおよび昭和四九年二月一日から同月四日までの三回にわたって合計二一三日間川瀬病院に入院し、昭和四八年三月一三日から昭和四九年一二月九日までの間に七九回同病院に通院したほか、昭和四八年四月二三日から昭和四九年一二月九日までの間に六本木眼科に七九回、昭和四八年五月一九日から昭和四九年一二月三日までの間に虎の門病院に二九回、昭和四九年八月一四日から同年九月四日までの間に順天堂大学医学部附属病院に三回通院して治療を受けたが、頸部交感神経の損傷による発汗障害(首、顔、頭の左半分は全く汗が出ず、その他は多汗症で疲労度増大。)、肺機能低下、左角膜浸潤、眼球陥没(左角膜代謝機能低下が原因で左眼瞼下垂、眼球陥没の症状があり、今後も週一回の通院を続け生涯にわたって点眼薬を使用する必要がある。)の後遺障害が残り、右後遺障害は自賠法施行令別表後遺障害等級表第八級に該当する(ただし、自賠責保険の査定においては第一〇級と認定されたので、損害額の算定は右認定に従った。)。

右受傷に伴う損害の数額は次のとおりである。

(一)  入院雑費    一四万九一〇〇円

前記入院中一日当り七〇〇円、合計一四万九一〇〇円の雑費を要した。

(二)  温泉療養費   一九万九〇三七円

昭和四八年三月三一日から同年七月一日まで、昭和四九年五月一九日から同年八月一一日まで、昭和四九年一〇月九日から同月一四日までの三回の温泉療養をし、その費用として一九万九〇三七円を支出した。

(三)  医師・看護婦に対する謝礼 二万円

(四)  将来の治療費・通院費 二三八万二七三九円

前記通院のために現在月平均一万二〇〇〇円を要しているので、原告の余命三六年間に要する治療費・通院費の現価をライプニッツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して計算すると二三八万二七三九円となる。

(五)  後遺障害による逸失利益 一五一六万九一三〇円

原告は本件事故当時三七才の女性で、カナダ大使館に商務部秘書として勤務し年間二四三万一四六四円の収入を得ていたものであるところ、前記後遺障害による労働能力喪失率は控え目にみても自賠責認定の第一〇級の喪失率二七パーセントを下らないので、右収入に昭和四九年度の平均賃金上昇率三二・九パーセント、昭和五〇年度の平均賃金上昇率一三・一パーセントを加算した年収三六五万四七三一円を基礎としてライプニッツ式計算法(係数一五・三七二四)により年五分の割合による中間利息を控除して前記後遺障害による逸失利益の現価を計算すると一五一六万九一三〇円となる。

(六)  慰藉料    四二二万六〇〇〇円

前記入通院に対する慰藉料として二二一万六〇〇〇円、後遺障害に対する慰藉料として二〇一万円が相当である。

(七)  弁護士費用  二一一万三六〇〇円

四  損害の填補

原告は前記後遺障害に対する自賠責保険金一〇一万円を受領した。

五  結び

よって、原告は被告ら各自に対し二三二四万九六〇六円および内弁護士費用を除く二一一三万六〇〇六円に対する本件事故発生の日である昭和四七年一〇月二四日から、弁護士費用二一一万三六〇〇円に対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五〇年八月一九日から各支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三請求原因に対する被告ら認否

一  被告大場運送の認否

(一)  請求原因第一項は認める。

(二)  請求原因第二項(一)は認める。

(三)  請求原因第三項については、(二)の温泉療養費の支出と(五)のうち原告が事故当時三七才の女性であることは認めるが、右温泉療養費の支出と本件事故との因果関係を争い、その余はすべて不知。

(四)  請求原因第四項は認める。

二  被告新工務所の認否

(一)  請求原因第一項は認める。

(二)  請求原因第二項(二)のうち、被告新工務所の従業員相馬美幸、同山下俊幸、同富田良輔が加害車を誘導したことは認めるが、その余は否認する。

右相馬らは、被告新工務所が施工中の三井邸工事現場から大型貨物自動車が道路へ退出する場合後退して退出することになるので、加害車が安全に道路へ退出できるように後退の誘導をしたのであり、本件事故は右誘導の終了後に発生したものであるから、右相馬らの行為と本件事故との間には因果関係はなく、また、発進の際は運転手自身で容易に安全確認をすることができるのであるから、右相馬らが後退終了で誘導を打切って発進についての安全確認を運転手である訴外宮良にまかせたことに何らの過失はない。

(三)  請求原因第三、四項は不知。

三  被告らの抗弁

原告は、急カーブで歩車道の区別がなく、かつ、既に暗夜となっていて見とおしのきかない本件事故現場において、加害車の発進が予想されたのに、運転手からの識別が容易でない服装で加害車と左側のコンクリート塀とのわずかな間隙をぬって強いて通り抜けようとして加害車の左側に入りこんだものであり、本件事故発生については、原告にも歩行者としての一般的な注意義務に反した過失があるので、右過失は損害賠償額を定めるに際して斟酌されるべきである。

第四抗弁に対する原告の認否

否認する。

第五証拠《省略》

理由

一  事故の発生

請求原因第一項は当事者間に争いがない。

二  被告大場運送の責任

請求原因第二項(一)は原告と被告大場運送との間では争いがない。

三  被告新工務所の責任について、

被告新工務所の従業員である相馬美幸、同山下俊幸、同富田良輔の三名が加害車の誘導をしたことは原告と被告新工務所との間では争いがない。

そして、《証拠省略》を総合すると、被告新工務所が施工していた三井邸新築工事現場前の道路は四メートルから四・三メートル程度の狭い道路で赤坂方面から外苑通り方面への一方通行となっているため、建築資材等を運搬してきた大型貨物自動車が右工事現場から退出する場合には後部を赤坂方面に向けてハンドルを右に切りながら後退し、車体が道路に出てしまってから外苑通り方向に向って前進するという方法をとらなければならなかったので、大型貨物自動車が退出する場合はその場に居合わせた被告新工務所の従業員等が後退の誘導をしており、加害車も右工事現場に建築資材を運搬してきた車輛で大型貨物自動車であったので、加害車が安全に道路に退出できるよう右相馬ら三名が後退の誘導をしたものであるが、加害車運転手の宮良昌招が加害車の後部を赤坂方向に向けて後退させて車体を道路に出したうえ若干前進させて車体を道路と平行にして停止したので、相馬らは右時点で誘導を打切り右宮良に気をつけて帰るようにいって工事現場に引き返すため二、三度歩き出したときに本件事故が発生したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定事実によると、本件事故は相馬らの誘導行為の終了後に発生したことが明らかであるから、相馬らの誘導行為と本件事故との間には因果関係はなく、また、自動車を前進させる場合は運転手自身が直接またはサイドミラーによって前方および側方の安全確認をすることが可能であり、前掲証拠によると右相馬らは自動車の誘導を職務としているものでないことも明らかであるから、同人らが右時点で誘導を打切った点に過失があるともいえないので被告新工務所は原告に対して本件事故による損害を賠償する義務はないといわなければならない。

四  損害

《証拠省略》を総合すると、原告は本件事故のために胸部打撲、右肋骨骨折(Ⅱ~Ⅹ)、右血胸・気胸、顔面挫傷、左鎖骨骨折、左肋骨骨折(Ⅱ、Ⅲ)の傷害を受けて昭和四七年一〇月二四日から昭和四八年三月一一日まで、昭和四八年一〇月二三日から同年一二月三一日までおよび昭和四九年二月一日から同月四日までの三回にわたって合計二一三日間川瀬病院に入院し、昭和四八年三月一三日から昭和四九年一〇月七日までの間に七七回同病院に通院したほか、虎の門病院、順天堂大学医学部附属病院、六本木眼科にも通院して治療を受けたが、肋骨、鎖骨等の変形治癒による胸郭の変形、肺機能の低下、外傷性頸部交感神経症を原因とする左眼眼瞼下垂、左側の顔面・頭部・頸部・肩部の発汗障害の後遺障害が残り、そのために左鎖骨および右前胸下部に疼痛があり、左眼は充血したり疲労しやすく点眼薬を使用しないと眼瞼がたれ下ってきて物が見にくくなることがあり、頭・顔・肩の左半分は発汗がなくて右半分は発汗が著しく、体力が低下して身体が疲れやすい等の自覚症状があって、右後遺障害は昭和四九年頃には既に症状が固定していること、および、右後遺障害は自賠責保険の査定において総合して自賠法施行令別表後遺障害等級表第一〇級に該当するものとされていることが認められる。

そこで、以上の事実を前提に以下損害の数額について判断する。

(一)  入院雑費    一〇万六五〇〇円

前認定の原告の受傷内容および治療経過によると、原告は前示二一三日間の入院中一日当り五〇〇円程度の雑費を要したものと推認される。

(二)  温泉療養費   一一万九四二二円

《証拠省略》によると、原告は前示川瀬病院の主治医から勤務再開前に温泉にでも行って休養をするように勧められたこともあって前示治療期間中の昭和四八年三月三一日から同年四月七日まで、同年六月二四日から同年七月一日まで、昭和四九年五月一九日から同月二六日まで、同年八月四日から同月一一日まで、同年一〇月九日から同月一四日までの五回は塩原温泉に、同年七月四日から同月一一日までは下部温泉に行って温泉療養をし、その宿泊費および交通費等として合計一九万九〇三七円を支出したことが認められる(右支出の点は当事者間に争いがない。)。

しかしながら、《証拠省略》によると、原告が長期欠勤(休職)をしたのは昭和四七年一〇月二五日から昭和四八年四月八日まで、同年一〇月一三日から昭和四九年三月一七日まで、同年九月二七日から同年一〇月一五日までの三回であることが認められ、長期欠勤後の勤務再開前のものは昭和四八年三月三一日から同年四月七日までと昭和四九年一〇月九日から同月一四日までの二回のみであり、他の四回については前認定のように疲労しやすくなったのでその回復を図る目的であったであろうと窺えなくもないが、時期的に春から秋までに集中していて前認定の入院等との関連も明らかではなく、医師の明確な指示によるものともいえないので、右温泉療養費のすべてについて本件事故と相当因果関係があるとは認め難く、前認定の受傷内容、治療経過を併せ考えるとその六〇パーセントに相当する一一万九四二二円(円未満切捨)についてのみ本件事故との相当因果関係を認めるのが相当である。

(三)  医師・看護婦に対する謝礼 二万円

《証拠省略》によると、原告は前認定の入院中に医師・看護婦に対する謝礼として二万円を支出していることが認められるところ、前認定の原告の受傷内容、治療経過に鑑みると右支出は本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。

(四)  将来の治療費・通院費 九二万九三〇六円

《証拠省略》によれば、原告は前認定の目の症状のために六本木眼科に通院して点眼薬の使用を続けており、右通院回数は月四回程度から二回程度に減少しているものの、今後も長期にわたって通院の必要があること、および、右通院のために要した治療費および交通費は昭和五〇年六月から昭和五二年二月までの二一ヶ月間で一五万六六八五円であり、平均すると一ヶ月に七四六一円、年間にして八万九五三二円を要していることが認められ、右事実に前認定のとおり原告の目の症状は目や眼瞼そのものの機能が失われたことによるものではなく、外傷性頸部交感神経症が原因になって生じているものである点を考慮すると、原告は右の目の症状のために一五年間程度通院を要し、その間右程度の治療費を要することになるものと推認される。

そこで、ライプニッツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して右治療費の本件事故当時の現価を計算すると九二万九三〇六円となる。

(五)  後遺障害による逸失利益 五四三万六四五三円

《証拠省略》によると、原告は本件事故当時三七才の女性で(この点は当事者間に争いがない。)カナダ大使館に商務部秘書として勤務し月額一六万八八四八円の支給を受けていたものであるところ、原告は前記(二)で認定したとおり本件受傷のために三回にわたって長期欠勤をしたが、昭和四九年一一月頃からは平常勤務を再開し、前示後遺障害のために仕事の能率が落ち同じ仕事をするのにより多くの努力と時間を要し、勤務時外の余暇も疲労を回復し体調を整えるための休養に専念して従前のようにテニスやスキー等のスポーツを楽しむことはなくなったけれども既に三年以上事故前と同じ仕事に従事しており、給与についても、長期欠勤のために昭和四八年度と四九年度の定期昇給はなかったものの、勤務再開後物価調整による給与改訂により昭和四八年四月から月額二〇万二六二二円、昭和四九年一〇月からは月額二五万九七一五円にそれぞれ増額し、昭和五〇年一〇月には定期昇給および物価調整による給与改訂により月額二八万九四二七円、昭和五一年一〇月には定期昇給により月額二九万四四五五円にそれぞれ昇給していることが認められる。右事実によると、原告は月額五〇〇〇円前後の定期昇給を二回受けられなかったこと以外に前示後遺障害による金銭的な損害を受けているとはいえないが、長期的にみた場合は勤務能率の低下によって昇給等で不利益を受ける可能性がないとはいえず、また、体力の低下のために右大使館の定年である六〇才(この事実は原告本人尋問の結果によって認める。)まで勤務を続けることができるかどうかについても不安がないわけではなく、これらの事情に前認定の後遺障害の内容および程度を併せ考えると、原告は右後遺障害により前示定年までの稼動期間を通じ平均して労働能力の一五パーセントを喪失したものと認めるのが相当である。そこで、前示後遺障害の症状固定時である昭和四九年末現在の原告の年令および収入を基礎としてライプニッツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して右後遺障害による逸失利益の本件事故当時の現価を計算すると五四三万六四五三円(円未満切捨)となる。

算式 二五九、七一五円×一二×〇・一五×(一三・四八八五―一・八五九四)=五、四三六、四五三円

(六)  慰藉料        三八〇万円

前認定の原告の受傷内容、治療経過、後遺障害の内容および程度その他本件に顕れた諸般の事情を考慮すると、本件事故によって原告が受けた精神的苦痛に対する慰藉料としては三八〇万円が相当である。

五  過失相殺の主張について、

《証拠省略》を総合すると、前記三において認定したとおり加害車が三井邸新築工事現場から後退して道路上に退出し車体を道路と平行にするため若干前進したうえ加害車運転手の宮良昌招が後退の誘導をしてくれた工事現場責任者の相馬美幸らに挨拶をするために一時停止したとき、加害車の左側面と道路左側のコンクリ塀との間に一メートル程の余裕があったので、加害車が動いている間一時立ち止って待っていた原告が加害車の停止したのをみてその左方を通り抜けようとしていたのに、右宮良が加害車は長さ八・四一メートル、巾二・四メートルの大型貨物自動車であるのに対し道路は四ないし四・三メートルと狭くて左にカーブしており、道路右側にはカーブミラーと電柱が立っているのでこれとの接触を気にして左方に対する安全確認を怠ったために自車の左方を歩行中の原告を見落したまま左にハンドルを切って発進し自車左側面とコンクリート塀との間で原告を狭圧したものであることが認められ(る。)《証拠判断省略》

右事実によると、加害車が一時停止後すぐ発進することは予想できないことではなく、当時夕暮れで暗く(この点は前掲証拠によって認める)サイドミラーによるしかない運転者からは側面にいる歩行者を確認しにくい状況にあったのであるから、歩行者である原告としても加害車が停止したからといってすぐ狭い加害車とコンクリート塀との間を通り抜けるようなことはしないで加害車の通過を待つべきであったといえなくもなく、この意味で原告にも落度がなかったとはいえないが、ともかくも原告は停止した加害車の側方を通り抜けようとしていたのであり、発進および左転把に際して左方の安全確認を怠ったという前記宮良の過失と対比すると過失相殺をしなければならない程の落度とはいえないので、被告大場運送の過失相殺の主張は採用しない。

六  損害の填補

原告が自賠責保険から後遺障害に対する保険金として一〇一万円を受領していることは当事者間に争いがないから、右額は前示損害額から控除すべきである。

七  弁護士費用       七五万円

弁論の全趣旨によると原告は本訴を原告訴訟代理人に委任し相当額の費用および報酬を支払い、もしくは支払いを約しているものと認められるところ、本件事案の性質、審理の経過、認容額に鑑みると本件事故による損害として被告に賠償を求め得る弁護士費用の額は七五万円と認めるのが相当である。

八  結論

そうすると、原告の本訴請求は被告大場運送に対し一〇一五万一六八一円および内弁護士費用を除く九四〇万一六八一円に対する本件事故発生の日である昭和四七年一〇月二四日から、弁護士費用七五万円に対する本件訴状送達の日の翌日であること記録上明らかである昭和五〇年八月一九日から各支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、同被告に対するその余の請求および被告新工務所に対する請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 笠井昇)

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